Inserted: 01-20-2002
Die Bahnwelt STORY |
(c)1992 GLODIA |
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#2 Bartimoor 地底都市バルティモア |
II. −先住民の村− |
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そこは、広い空間だった。
壁は、岩肌がむきだしになっている。
地下水だろうか。壁伝いに水が流れている。
地面は、湿った土で、所々苔が生しているのが分かる。
天井は、暗くて良く見えないが、かなり高そうだ。
そう、今まで通ってきた洞窟とあまり変わり映えしない光景がそこにあった。
違うところと言えば、壁にかかる蛍光灯が多い事。
その灯りは、陽の光が届かないこの空間を明るく照らしている。
だから、ここに何があるのか、すぐに分かった。
壁が崩れ落ち、鉄骨がむき出しになっている建物。
いくつかの扉は錆付いていて開きそうにもない。
同じようなものが奥にもいくつか建っているようだ。
「これが地底都市?まるっきり、廃虚じゃない。交通機関なんてあると思う?」
私は、肩を落としてカノールに尋ねた。
「・・・やられたな・・・。
コンピュータの情報は、はるか昔のデータに基づいたものだ」
カノールも悔しそうな顔をして言う。
ロボットは、ここには入ってこないようだ。取り敢えず一休みは出来そうだ。
私は、辺りを見渡した。静まりかえっていて、人の気配は無い。
「地上の都市もそうだったけど、この世界に生きている人間はいないのかしら?」
「この有り様では、期待できそうにないね」
と、カノールが言ったその時、視界の端に動くものが見えた。
ロボット?…じゃない。あれは…、
「カノール、人よ!女の子がいるわ」
私の声にびっくりしたのか、建物の影に隠れる女の子。背格好からして5、6歳位だろうか。
合成繊維でない布の服に革の靴。機械文明が発達する前の人たちの格好に似ている。
女の子は、顔を半分出して、こちらを伺う。
「大丈夫。何もしないよ」
カノールは、優しく語りかける。
何もされないと分かったからだろうか。女の子は建物の影からゆっくりと出てくる。
「あなた達だあれ。見たことないかっこしてる」
私達を見上げながら問いかけてくる。
「俺はカノール、彼女はラーニア。
大人のいるところに連れて行ってくれないか。お嬢ちゃん」
カノールのその言葉に女の子は憮然とした表情になる。
「あたしだって大人だよ。子供じゃないよ」
あぁ。そうだよね。この位の年の女の子って子供って言われるのが嫌なんだよね。
私もそうだったなぁ。そんな事を思い出して私は微笑する。
「ふふふ…。わかったわ。じゃあ、ここでいちばん偉い人の所に連れて行ってくれない」
中腰の姿勢でこう言うと、女の子は、笑顔を返してきてくれた。
そして、ちょっと首をかしげて、答えてくれる。
「え…と、それなら語り部のおじじね」
「誰だいそれは」
カノールがすかさず聞き返す。
「村のことならなんでも知っているわ。
この世界のことも教えてくれるのよ。ついてきて」
女の子は、奥の方に向かって駆け出した。私達は、慌てて後をついて行く。
「ありがとう、お嬢ちゃん」
私がそう言うと、女の子は、こちらを振り向いて言った。
「あたし、リセルっていうの。おぼえといて」
リセルは、私達を建物の一つに連れてきてくれた。
玄関の自動ドアが空気音を響かせ開く。
中に入ると、一人の老人が椅子に腰掛けていた。
頭は、すっかりはげていて、白く長い髭をたくわえている。
「あそこにいるのが語り部のおじじよ。村のことならなんでも知っているわ」
ここは、いわば長老の家なのだろう。
語り部と呼ばれていることから考えると、過去の知識を代々受け継いでいるのだろう。
もしかすると、何か知っているかもしれない。
「おや、リセル。また、昔の話を聞きに来たのかな」
こちらに気付いたのか、優しそうな老人の声が近づいてくる。
「ちがうよ、おじじ。あたし、もうそんな子供じゃないもん。
知らない おにいちゃん達を連れてきたの」
リセルが元気一杯のかわいらしい声で答える。
でも、ちょっと、その…、『知らないおにいちゃん達』って、不審者じゃないんだから…。
「どうも、初めまして」
リセルの言葉を気にしなかったのか、カノールがさわやかに挨拶する。
私達の姿を見た途端、今まで穏やかだった老人の顔に緊張が走る。
「なんじゃ、おぬしらはいったい…」
見ず知らずの者が、突然入ってきたのだ。驚かないわけは無い。
「私はカノール、彼女はラーニア。
私たちは、外の世界からやって来たのです」
「わー、それって、もしかして、おじじが話してくれた”太陽のある世界”のこと?」
目を輝かせて、リセルが声をあげる。
そのリセルに向かって老人は静かに言う。
「リセル、おまえは外で遊んでいなさい」
「えー、なんでー。リセルもここにいたい」
駄々をこねるリセル。まあ、当然だろう。
すると、少し困った顔をして老人は、奥の棚から小さい袋を取り出した。
「だめじゃ。ほれ、お菓子をやるから、これを持って 遊んで来なさい」
嫌そうな顔をするリセルだったが、
老人の険しい顔を見てこれ以上何を言っても駄目だと感じたのだろう。
「…、はーい」
袋を受け取って、渋々外へ出て行く。…、うーん、ちょっとかわいそうかな。
老人は、リセルが出て行った事を確認すると、テーブルの椅子に腰掛けた。
しばらく、私達を眺めてから、首を縦に振る。こっちに来いということだろうか。
私はカノールの方を向いた。
カノールは、頷く。…、行こうってことよね。
私達は老人のいるテーブルへ近づいて行った。
弾けるような音がして、部屋の奥に掛けられた蛍光灯がちらつく。
コンクリートで固められた壁と床は、所々ひびが入っている。
天井は、所々コンクリートが崩れ鉄骨がむき出しになっている。
一応、石を詰めたり布で覆ったりしているが、それでも僅かな隙間が残っている。
壁の一部は岩肌がむき出しになっていて、その壁伝いに水が流れている。
洞窟の壁を建物の一部として利用しているのだろう。
奥にも部屋があるようだが、扉が閉まっていてどうなっているのかここからは見えない。
これが、語り部と呼ばれてる老人の家だった。
文明とは、かけ離れた質素な生活。
やはり、私達の目指す地底都市は滅びてしまったのか…。
「… 話しの続きを聞かせてくだされ」
テーブルについてからしばらく、こちらをじろじろと見ていた老人が口を開いた。
「本当におまえさん方は、リセルのいったように”地上”から来たのじゃな?」
しわがれた声で言う老人は、まだ緊張を解いていない。私達を警戒しているのだろう。
「たしかに私たちは、地上から洞窟を抜けて、ここにやって来ました」
あくまで丁寧にカノールは答える。
「しかし、私たちの住んでいる世界は、時空を超えた外の世界なのです」
老人は、少し驚いたような顔をした。カノールは、続ける。
「私たちはラーカイアという船によって、この世界に飛ばされてきました」
ラーカイアという単語に老人は一瞬反応する。
「元の世界に帰るためにヴェルビアスの力を捜し求めています。
なにかご存知ありませんか?」
「ヴェルビアス…。知らん。わしらは、何も知らん」
老人は首を横に振った。
…、何かを隠している…。それは分かるが、あえて問いたださない。
「見ての通り、この世界を創った文明は遠い昔に滅んでおる」
そして、辺りを見渡してから、老人は続ける。
「わしらはその子孫だが、このように文明とは縁の無い生活をしているのですじゃ」
「ここなら、何か情報が得られる思ったのですが…」
肩を落として言う、カノール。
無理やり聞き出し、不信感を強めるわけにもいかない。私もため息をつく。
その様子を見て不憫に思ったのだろう。老人は、こう言ってくれた。
「まあ、あまり気を落とされぬことじゃ。
とりあえず、今日はこの家でゆっくり休んでいかれるがよい」
その時、扉が開く音がした。開ききらないうちに、男が、駆けこんでくる。
私達は、一斉に、その男の方へ顔を向けた。
「語り部、大変だ!洞窟からロボットが、た、たくさん現われて、みんなを襲っているんだ」
俺達が話している途中、突然入ってきた男は、慌てふためき、叫ぶ。
「そんな馬鹿な、洞窟のロボットは村には侵入してこないはずじゃぞ」
語り部の長老は、椅子から立ち上がり、呆然と立ちすくんでいる。
「それが今まで目にしたこともないロボットなんです」
男は、表の方を振り向きながら言う。
「もしかして…」
ラーニアの考えている事は、多分俺と同じだ。
「ああ、きっとゲーリー教授のロボットだ」
俺が言うとラーニアも頷く。
「うん。そうね。狙いは、レデゥースの鍵かしら」
そうだろう。しかし、何て強引なやり方なんだ!
「行こうラーニア。やつらの狙いは俺たちなんだ。
ここの人に迷惑はかけられない」
俺達は、建物の外に飛び出した。
「村の東側の洞窟みたいね」
ラーニアが言う。そちらの方から銃声が聞こえる。
急がなければ。手遅れになるかもしれない。
俺達は、全速力で銃声のする方へ駆けて行く。
やがて、洞窟の入口が見えてきた。
柵で塞がれていたのだろうが、今は、それは破られ、原型を留めていない。
ゲーリー教授の姿は見えない。この洞窟の中にいるのか?
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
ラーニアが入口の近くでうずくまっている男に声をかけた。
「大変だ!ロボット達がたくさんやってきて、リセルをさらって行った」
銃弾がかすったのだろう。血がにじむ腕を抑えながら、その男は言った。
「カノール、あれ」
ラーニアは、洞窟の入口を指差した。
壊れた柵に一枚の紙切れが貼ってある。
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カノールよ。
村の少女を預かった。
返して欲しくば金属板を持って、
一人でこのデスハーンの
所までやって来い。
私は洞窟の奥にいる。
生きてたどり着けたあかつきには、
この私自ら引導を渡してやろう。
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「デスハーン、め!卑怯な手を…」
俺は、紙を握り締めた。怒りで手が震える。
「しかたない、ラーニアはここで待っていてくれ。
俺一人で、リセルを救出する」
こみ上げる感情を抑え、俺はそう言った。リセルを助ける事が何より再優先だ。
「わかった…。くれぐれも気をつけてね」
ラーニアの言葉に頷き、俺は洞窟の中に入る、が。
「暗いな…。これじゃどこにいるのかも分からない」
洞窟の中は薄暗い。。その上、暗い影からロボットの奇襲を受ける。
ラーニアがいれば、少しは楽なんだが…。
と、そんな気弱な事を言っている場合ではない。
しかし、このまま進むとデスハーンを見つける前にやられてしまうかもしれない。
体制を立て直す為、俺は、一度洞窟の外に出る。
「カノールどうしたの?」
洞窟の入口で待っていたラーニアが聞いてくる。
「暗くて、何処に進めば良いのか分からないんだ。
ロボットの攻撃も多い。応戦しながら探索していたら時間がかかりすぎる」
俺が言うと、ラーニアは、心底悔しそうな顔をした。
「私も行ければ、ロボットなんて一撃なのに…」
「リセルが人質なんだ。俺一人で行かなきゃ。
…取り敢えず、長老に相談してみようと思う」
俺は、ラーニアをなだめながら言う。
「…そうね。リセルが心配だわ。急ぎましょう」
俺達は、再び長老の家へと走り出した。
「何ということじゃ。リセルがさらわれるとは…」
長老は、俺達の報告に頭を抱える。
「すみません。私達のせいで迷惑をかけてしまって…。
リセルは、必ず助け出します」
俺は、力強く言った。
「洞窟にお入りなさると言うか」
俺は、長老の方をまっすぐ見て言った。
「…、よかろう。これを持って行きなされ」
俺達を、少しは信用してくれたのか。
長老は、小さな金属の固まりを手渡してくれた。
「これは…、スキャナーですね。こんなものがあったんですか」
スキャナーは、自分のいる位置から周りの地形を出力してくれる。
ラーニアに見てもらって確認する。地図データは、東の洞窟しか入っていないようだ。
だが、これで、洞窟を当ても無く歩き回らなくてすむ。
俺達が礼を言うと、長老は、後ろを向いて静かに話した。
「古代の遺物の中には、わしらの理解を越えてしまったものもある」
俺達は、黙って長老の話を聞く。
「一度文明を手に入れた生き物は、もはや文明なしでは生きてはゆけぬ。
そして、その文明と共に滅んで行くものなのじゃ」
「そうして、この世界は滅んだのね」
ラーニアが、長老に気付かれぬよう、小さな声で言う。
俺は、それに頷く。そして、長老に挨拶をし、再び洞窟へ向かった。
「装備は、しっかりしていった方がいいわね」
洞窟の入口でラーニアが、持っている強力な銃と交換してくれる。
いまできる準備は、十分やった。俺は、勇んで洞窟へと入っていく。
洞窟は、道が狭く、気を抜くとすぐロボット達に囲まれてしまう。
それに、道を塞いで攻撃してくる奴もいた。
俺は、銃でひたすら応戦する。苦戦はしたが、何とか切り抜けて行く。
スキャナーの表示では、この先が洞窟の一番奥のようだ。
「ラーニア、気を抜くな」
…、言ってから気付く。そうか、今は俺一人だった。
そう自覚すると、何だか少し、心もとなくなった。
このところ、ラーニアに頼りすぎてしまっていたかもしれない。
一人でも平気だと思っていたのにな。俺は苦笑し、先へと進む。
少し進むと、スキャナーの示す通り、広い場所に出た。
その中央に立っている男。その男の顔は、半分機械で覆われている。
間違い無い。デスハーンだ。
その近く、手を縛られ、震えて立っている少女。
俺は、胸をなでおろす。今のところ、リセルは、無事だ。
気合を入れなおし、俺は、デスハーンへと、近づいて行った。
近づいていく俺の方を見て、デスハーンは、感情の無い声で言う。
「ここまで来れたか。まあ、途中で倒れられてはおもしろくない」
「デスハーン!言われた通り、一人でやってきたぞ」
俺は、デスハーンの行動に注意しながらゆっくりと近づく。
「おにいちゃん、助けて!」
目に涙をためながら叫ぶリセル。よっぽど怖かったのだろう。
「少女を盾にしなくては戦えないのか。卑怯者め!」
「うぬぼれるな!小娘はおまえを呼び出す小道具にすぎん」
なんて言いぐさだ。俺は、デスハーンを睨みつける。
それに意を介さず、デスハーンは続ける。
「私はゲーリー教授によって、無敵の肉体を与えられたのだ。
貴様などを倒すのに、小娘を盾にする必要など無い!この通り開放してやる!」
そう言うと、デスハーンは、リセルをこちらに突き飛ばした。
よろけて、転びそうになるリセルを、俺は抱きとめた。
「大丈夫だ。リセル、あそこに隠れてるんだ!」
俺は、岩陰を指差して叫ぶ。
そして、リセルが隠れるのを確認してから、銃を構える。
そうしてから、ようやくデスハーンも身構えた。
…、畜生。俺も甘く見られたもんだ。
「さぁ、我が力を見せてくれる!」
そう言い放ち、デスハーンは、いきなり銃光線を放ってきた。
銃光線は、前方4方向に絶え間無く放たれる。
デスハーンの前方に立つと、すぐさまやられてしまう。
光線を避け、後にまわりこんで攻撃しようとした。
しかし、デスハーンの素早さになかなか追いつかない。
全速力で駆けまわり、攻撃を受けているうちに、息があがってしまう
「み…水っ…」
隙を突いて、俺は、洞窟を流れる地下水の前に膝まづく。
「ふん…、人間とは不便なものよ。だが、一度だけだ」
デスハーンは、攻撃を止めた。
くそっ。完全になめられている。俺は、素早く水をすくい、喉に流し込む。
少しは楽になった。俺は、また、立ちあがり、デスハーンと対峙する。
それを見て、デスハーンは、再び攻撃を始める。
走り回っているだけでは駄目だ。今度は、なるべく小さい動きで攻撃を避ける。
そして、デスハーンの動きを注視する。
いかに速い動きとはいえ、なにかしらパターンはあるはずだ。
パターンを抑えて、先回りすれば、速さはカバーできる。
俺は、これまでの冒険で培った感をフルに使い、パターンを読んでいく。
よし、大分分かってきた。俺は、奴の進む場所を予測し、その後ろへ回り込む位置へ駆け出す。
案の定、その場所へ動いたデスハーンに銃弾を浴びせる。
だが、その数瞬後、すぐこちらを振り返り、攻撃をしてくるデスハーン。
俺は、飛び跳ねるようにして、その場を離れる。
そしてまた、次に行くであろう場所を計算する。
これを繰り返すうちに、さすがのデスハーンも動きが鈍くなってくる。
腕からは、こちらの銃を受けた時に焼き切れたのか、鋼線が火花をあげている。
もちろん、俺も無傷ではない。奴の攻撃を大分受けてしまっている。
それに、さっき回復した体力もかなり失った。
次の一撃で勝たなければ、殺られる。
デスハーンも同じことを考えているのか、こちらと間を取り、タイミングを計っている。
ほんの少しの静寂な時間。そして…。
攻撃を仕掛けたのは、デスハーンだった。
しかし、目標が甘い。俺は、奴の攻撃をかわし一気に詰め寄る。
自分がやられるなんて事は、少しも考えていなかったのだろう。
数瞬、デスハーン動きが鈍る。
それを俺は逃さない。思いきってトリガーを引く。
至近距離からの攻撃。
それを避けられるはずもなく…。
爆音と爆風。
あわてて、両腕で顔を覆う。機械の破片が頬をかすり、血が滲む。
吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
ダメージはあったが、何とか立ちあがり、奴の方を見る。
そこには、無残な姿となったデスハーンが転がっていた。
片腕がもぎれ、オイルが流れている。色こそ違うが、まるで血のようだ。
全身黒くすすけ、所々煙が立ち昇っている。
足の間接部分は、ワイヤーが焼き切れ、そう簡単には動かせそうに無い。
俺は、よろけながらも奴に近づいて行った。
「この私が…、人間に破れるなど、有り得ぬはず…」
デスハーンは、つぶやくように言った。
かろうじて、思考能力は生き残っているが、攻撃するだけの力はもう無いようだ。
「こうなっては、もはや我が存在など無意味。
我が主、ゲーリー教授の威光をも地に落としかねぬ」
ぎこちない動きで、俺のほうを向いて、続ける。
「さあ、さっさととどめを刺せ!」
これが、肉体を機械にまでして、強さを求めた男の最期か…。
俺は、何とも言えない虚しさを感じた。
目的は、デスハーンの抹殺ではない。
これ以上、ここで、俺のやることは残っていない。
「…。さあ、リセル行こう」
岩陰に隠れていたリセルに手を差し伸べ、
俺は、そのまま、その場を去って行った。
デスハーンの言葉にならない叫びが洞窟にこだまする。
「無事で良かった…」
洞窟から出てきた、カノールとリセルの顔を見て、私は、胸をなでおろす。
もっとも、カノールは、傷をおっているので、手放しには喜べないが。
その時、ふと、背後に気配を感じる。
ゆっくり後ろを振り向くと、ここの住人だろうか、一組の若い男女が心配そうな顔をして立っている。
と、突然リセルが大声で泣き始めた。
どうしたら良いのか分からず、ぽかんとしている私達の横を通りすぎ、若い男女の方へ走っていく。
ああ、そうか。お母さんとお父さんなんだね。
リセルは、母親に抱かれてようやく泣くのを止めたようだ。
でも、その小さな身体は震えていて、父親がやさしく頭をなでている。
私もちょっと、感傷的になり、目が潤んでしまう。
そうしていると、リセルの親達と、私達の目が合った。
親たちは、目をそらす。が、一応お辞儀だけはして、その場をそそくさと去って行った。
「何?あの態度」
子供を助けてくれた者への態度にしては、あんまりじゃない?
頬を膨らます私に向かって、カノールが静かに言う。
「ラーニア。俺達はよそ者なんだ…」
そうだった。こんな所で他との交流もなく過ごしてきた人たちだ。
閉鎖的になるのは仕方が無い。外から来た私達は、ある意味脅威でしかない。
この場所へ来た時、人の気配を感じなかった。
それは、ここに人が居ないという事で無く、私達を避けて近づかないだけだったのだ。
「ところで、次は、何処に行く?」
私は、カノールに聞く。
ここでは、あまり有用な情報は得られなかった。また、情報を求めさまよわなければならない。
「さあな。手がかりも無いし。とりあえず長老に挨拶をしてから考えよう」
私達は、長老の家へ向かって歩き始めた。
歩いている途中、たまに人を見かけても、私達からは逃げていってしまう。
仕様が無いと分かってはいても、何か嫌な気分になる。
ただ、リセルのように、私達に興味を持ち、近づいてくる子もいた。
「リセルを助けてくれてありがとう」
とか言ってくれて、私の気分も少しは晴れた。
カノールも微笑んでいて、まんざらでも無いようだ。
しかし、この村は、この後訪れる人も無くずっと閉鎖的な生活をしていくのだろうか。
そうして、このまま滅びを待つのだろうか。そう考えると少し胸が痛む。
…リセルのような子供達が外の世界へ興味を持って飛び出すかもしれない。
そうしたら、もしかして、可能性は少ないけれども…。
そんな事を考えているうちに、長老の家にたどりつく。
長老は、椅子に座って、私達の居る場所とは別の方向を見ていた。
「すまんの。この村の者の態度に、気を悪くしたじゃろう」
私達を、避けるような行為を言っているのだろう。
「いえ。私達にも責任はありますし」
慌てて、カノールが否定する。100% 本心では無いだろうけど。
「気をつかわんでくだされ。…わしらの心は、すっかり閉ざされてしまったのかもしれん…」
寂しそうな顔をして言う長老。
そして、ようやく、こちらを向いて話を続ける。
「リセルを救ってくれたお礼をせねばならん。
実は、あなた方に隠しておった事があるのじゃ」
やっぱり。何かを知っていたのね。
私達は、押し黙り、長老の言葉に耳を傾ける。
「わしらはヴェルビアスの秘密の一部を 受け継いでおる。
じゃが、ヴェルビアスの力再び発現しせし時、大いなる災いが世界を襲うともいう。
そなた達であれば、あるいはその力を災いから救うことができるやもしれぬ」
長老は、そこで一息ついてから、こんな話を聞かせてくれた。
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我は、
偉大なるヴェルビアスの知識を伝えるもの
ヴェルビアスは地上にあらず
ヴェルビアスは時空船ラーカイアにあり
ヴェルビアスは、
ラーカイアと共に時空をさまよう
されど、
ヴェルビアスの真の力を甦らせるのは、
天空都市レクサー
ヴェルビアスを求める者、
天空都市レクサーに現われよ
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「なるほど。で、その天空都市に行くにはどうしたら良いのですか」
長老の話が終わったところで、カノールは尋ねた。
しかし、長老は、首を横に振って言った。
「天空都市については、わしらには何も判らぬ。
わしらにとって、天に見えるものは大地。人が住むことなど、想像すらできぬ」
長老は、上を仰ぎ見る。
遠い、彼らにとっては、遥かに遠い空は、洞窟の天井に遮られ見ることも出来ない。
「伝承からすると天の上にさらに大いなる空間が広がり、
古代の文明をもってすれば、そこに世界を作ることもできたのじゃろう」
長老は、今度は、うつむいて息を漏らす。
「じゃが、もうそれはどうでも良いことじゃ」
その言葉には、何とも言えないあきらめの気持ちが含まれていた。
もしかすると、彼も若い時には、外の世界を夢見ていたのかもしれない。
しかし、それでは、私達は困る。
「そんな、それじゃあどうしようもないの?!」
私は、そう、叫んでしまった。
「いや、可能性はあるのじゃ」
長老は、再び私達のほうを見て言った。
「ここよりさらに下層にある地底都市の廃虚に、
他の都市へ瞬時に移動することができるという、古代の遺産があったそうじゃ。
それを使えば、天空都市へ行けるやも知れん」
と、いうことは、つまり、
「それって、きっと乗り物か非常口があるってことじゃない?」
私が言うと、カノールも別の意見を言った。
「瞬時に…?あるいは物質転送装置か…」
何にせよ、天空都市に行く方法があるかもしれないという事が分かったのだ。
私達は、互いの手を叩き合わせ、喜んだ。
「それから、伝承は同時にこう伝えますじゃ。
ヴェルビアスを求める者、その力の本質を理解せよ」
長老が、そう付け加える。
「力の本質…」
カノールがつぶやく。一体それは、何なのだろう?
その答えは、言わずに、長老は、懐から一枚の小さな黒い板を取り出した。
「この光ディスクをさしあげよう。
ヴェルビアスに関した情報が入っておるらしいが、
天空都市へ行けば再生できることじゃろう」
差し出されたディスクを受け取るのに躊躇するカノール。
「よろしいのですか。大切な物では?」
「わしらにとっては不要な物じゃよ」
苦笑しながら、長老は言う。
「遥かな昔、わしらの祖先は文明を捨て、このような暮らしを始めた。
今となってはその理由を知る由もないが、わしらは今のままの生活で十分満足しているのじゃ」
あながち、嘘でも無いようだ。
でも、私には…、機械文明を受け入れている私には、その気持ちは理解しきれない。
「ありがとうございました。私たちは、さっそく地底都市の奥に向かう事にします」
カノールは、素直に、お礼を言った。
あえて、見も知らぬ私達に伝承を教えてくれた長老に、私もお辞儀をする。
「うむ、気をつけてくだされ。この部屋の奥に地底都市へ通じる入口がある」
そう言って、長老は、奥の部屋のドアを開けてくれた。
私達が、奥の部屋に向かおうとした時、表のドアが開いた。
振りかえると、そこには、寂しげな顔をしたリセルがいた。
「おにいちゃん、おねえちゃん、がんばってね」
私達は、リセルのその言葉に強く頷いた。
リセルも、いつか、外の世界に行けると良いね。
それは、多分、かなわぬ願いだろう。だから、口には出さなかった、けど…。
「ラーニア、行くぞ!」
カノールの言葉に、我に返る。
そうね。行かなくては。私達は、私達の世界へ帰らなくちゃいけない。
奥の部屋の扉が開く。
最後にもう一度振りかえる。
そして、リセルに微笑み返し、私達は、地底都市へと進んでいった。
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